東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9212号 判決 1958年6月10日
事実
原告株式会社東京商会は訴外糠信電機株式会社に対し昭和三十年一月十七日から同年六月十五日迄の間に化学薬品等を販売し、その売掛代金債権合計六百八十六万九百七十七円を有するものであるが、右訴外会社は原告に対し前記代金の一部支払のため、昭和三十年六月十八日同訴外会社が被告株式会社本庄製作所に対して有する電線材料等の売掛代金二十三万七千九百円の債権を原告に譲渡し、同日被告に対し内容証明郵便をもつて右譲渡の事実を通知し、翌十九日右通知は被告に到達した。よつて原告は被告に対して右金二十三万七千九百円及びこれに対する完済まで年五分の割合による金員の支払を求めると主張した。
被告株式会社本庄製作所は、訴外糠信電機株式会社から本件債権を原告に譲渡する旨の通知のあつたことは認めるが、債権譲渡の事実は否認する。右譲渡は権限なき右訴外会社の社員浅野光一が社長の不在中勝手にしたものであるから無効である。そして同訴外会社は昭和三十年六月二十三日被告に対し右譲渡の通知を取り消す旨を通知して来た次第である。又被告の右訴外会社に対する債務は金十万三千百円であつて、被告は同年十月二十五日右訴外会社に対して右金額を支払つたものであるから、原告の請求は以上何れの点からみても失当であると抗争した。
理由
訴外糠信電機株式会社から被告に対し昭和三十年六月十八日付債権譲渡の通知があつたことは当事者間に争がない。しかしながら右債権譲渡の効力につき原被告間に争があるので判断するのに、右債権譲渡は前記訴外会社の社員浅野光一がしたことは当事者間に争がなく、証拠によると、右訴外浅野光一には債権譲渡をなす権限があつたものとは到底認めることができないけれども、他の証拠によれば右訴外人は、前記訴外会社の代表者である糠信和義の妻の弟であつて、右会社の営業関係を担当していたが、右糠信から同人の不在中債権者側と支払金額の折衝を委任されて社長の印鑑を預かつたことが認められるから、原告において同人に債権譲渡の権限があるものと信ずるに足る正当の事由があるものというべきである。従つて右債権譲渡は有効なものといわざるを得ない。被告は訴外会社から被告に対し債権譲渡の通知の取消があつたから本件債権譲渡は効力を失つたものであると主張するが、債権譲渡の通知の取消はその理由の如何を問わず債権譲渡そのものを消滅させる効力がないこと勿論であつて、右訴外会社と原告との間の債権譲渡契約が有効なこと前記認定のとおりであるから、譲渡人の債務者に対する譲渡の通知の取消により債権譲渡の効力を消滅させることはできないものというべく、被告の右主張は失当である。
次に被告は、被告の右訴外会社に対する債務は金十万三千百円であつてその支払を完了したと抗争するから按ずるに、証拠によれば、被告が訴外糠信電機株式会社に金十万三千百円を支払つたことが認められるけれども、右訴外会社は原告に対し本件債権を譲渡したこと前認定のとおりであるから、債権者に非ざる者に対してなした弁済に外ならない。そして右弁済を以て債権の準占有者に対してなした善意の弁済と解することもできないから、被告の右主張も採用できない。
してみると、被告は原告に対し、金二十三万七千九百円及びこれに対する完済に至るまで年五分の割合による金員を支払う義務があるものというべきであるから、原告の本訴請求は正当であるとしてこれを認容した。